予備・司法試験の学習法3~論証とは

 予備試験・司法試験の合格には、論文式試験を突破することが重要です。
短答式試験に合格しても、論文式試験にいつまでたっても受からず、涙を飲んで撤退する方も数多いです。

 そこで、この記事では、予備試験・司法試験突破の鍵となる「論証」について解説していきます。

1、論点とは

 それでは、論証とはいったい何なのでしょう。
これは、「法解釈」の存在と関係しています。
 本来、深い問題なのですが、かいつまんで説明していきます。

 法律を作るとき、本来は全てのケースをすっきり説明できるような法律にするのが理想的なのですが、全てのケースを想定して作ることは不可能です。
 また、法律である以上、ある程度抽象的に規定せざるを得ません。

 そこで、法律を作っても、「この場合どうなるの?」というケースが出てくるのです。
 一例を挙げましょう。

民法
第三条 私権の享有は、出生に始まる。

 人は、出生すると、権利を持てるわけです。
ここで、人はお母さんのおなかの中から生まれてくるわけですが、頭の先だけ出たら出生と言えるのか、全部体が出たら出生と言えるのか問題になります。
 前者を一部露出説、後者を全部露出説といいます。

 こんな細かい問題、くだらないと思われた方もいらっしゃるでしょう。

 しかし、出生のタイミングによって、相続なども変わってくるため、あなどれない問題です。

 そして、この問題は、法律の条文だけを見ても、よくわからないわけです。
 そこで、法律の条文を解釈して、一定の結論を導く必要が出てきます。
 このように解釈が必要な問題点のことを、論点といいます。

2、論証とは

 論証とは、この論点につき、理由を付けて、解釈の結論を示したパッケージのことです。

 先ほどの論点について、論証を記載します。

 民法3条1項は、「私権の享有は、出生に始まる。」と規定する。しかし、母体から一部露出した時を出生とするのか、全部露出したときを出生とするのか、法律の文言からは明らかではない。
 この点、解釈の明確性から、母体から全部露出したときを出生とするのが妥当である。

 これが論証です。
 全部露出説という結論を明示しています。
 また、理由付けも「解釈の明確性」とコンパクトに示しています。

 若干補足説明をしますと、一部露出説だと、頭の先がでたらいいのか、首まで出たらいいのか、基準があいまいになってしまします。そこで、全部露出説の方が基準が明確だろう、そういうことです。

3、なぜ論証を覚えなければならないのか

 それでは、なぜ、司法試験・予備試験の論文式試験突破には、論証を覚えることが必須なのでしょうか。

 まず、論証を1から考えるのは、時間がないということがあげられます。
司法試験・予備試験の論文式試験を解くにあたっては、時間が思ったより足りないです。
 そこであらかじめ用意できることは、用意しておく必要があります。

 料理で言えば、「下ごしらえ」です。下ごしらえしているから、料理をスピーディーにだせます。
 論証も同じことです。

 まだ、論証を一から考えるのは大変ですし、試験の現場では思いつかないこともあります。
そこで、論証を論文のパーツとして、用意していくのです。
 論証をいくつか組み合わせて、論文を作成することになります。

 そして、試験の現場では、論証でカバーできない点を考えることに時間を使うわけです。

4、論証の覚え方

 論証は、一言一句同じものを覚える必要はありません。
法律学は、論理が大事なので、ロジックが通じていれば、言い回しを変えたりしても問題ありません。
場合によっては、結論や理由付けが違っても問題ないです。

 予備校の講座を取ると、たいてい論証集が付いてきます。
また、市販の論証集もあります。

 それを読んで、まず理解をする。
(前提として、法律の理解は必要なので、予備校の入門講座を取るか、独学なら基本書を読んでおきましょう)

 その上で、自分が覚えやすい形にアレンジする(文言の言い回しなどを変えます)

 そして、キーワードを中心に覚える。

 論証を見ずに、チラシの裏などに書いて再現できるか確認する。

 このように論証を覚えていきましょう。

5、司法試験・予備試験の中で一番大変な作業

 司法試験・予備試験の勉強の中で、一番大変な作業が、この論証を覚える作業です。
ここで挫折する方も多いです。

 しかし、論証を覚えないと、論文が書けません。
 将来の法曹像を思い浮かべながら、頑張っていきましょう。

予備・司法試験の学習法5~判例の重要性

1、判例とは

予備試験、司法試験の学習で重要なものに、「判例」があります。

判例とは、裁判において具体的事件における裁判所が示した法律的判断のことを言います。

もう少し具体的に(予備試験・司法試験の勉強に合致するように言うと)、論点に対する結論と理由付けを言います。

論点とは、法律の解釈に争いがある点を言います。

例えば、刑法に強盗殺人罪という罪があります。

強盗が人を殺した罪です。当然ですが、法定刑は、死刑又は無期懲役という重い罪になります。

一方、刑法には「未遂」という概念があります。犯罪の結果が生じないときは、刑を減刑できるという規定です。

 

では、強盗殺人罪の未遂とは、強盗、すなわち財物の奪取が未遂なときをいうのか、それとも殺人の結果が未遂、すなわち人が死ななかった時をいうのか、という争いがあります。

これは法律の文言を眺めてもわからないからです。

これが論点になります。

判例は、この論点については「殺人の結果が未遂」であると述べます。

その理由付けは判例では必ずしも定かではありませんが、推定すると

「強盗殺人罪が重く処罰されるのは、人の生命を侵害するからであり、そうすると人の生命を侵害しなかった点を重視して未遂犯を決するべきだから」となるでしょう。

これが理由付けです。

 

2、判例は司法試験・予備試験の学習において大切なのか

これは大切としか言いようがありません。まず短答式試験では、判例の結論(場合によっては理由付け)が聞かれます。

また、論文でも判例の見解に従って書くことが求められることがあります。

司法試験・予備試験の学習にとっては、大事としか言いようがありません。

3、判例集をテキストの他に用意すべきか?

司法試験・予備試験の学習にとってはこちらの方が重大な問題です。

テキスト(予備校が出しているものや、学者が出しているいわゆる基本書を含む)は、判例の結論と簡単な理由付けくらいは載っています。

しかし、判例というのは本来事案も長いし、理由付けも長いことがあります。

そこで、その長い判例を読むために、テキスト以外に判例集が必要かという議論があります。

私は3つのグループに分けて考えましょうと言います。

(1)憲法・行政法(公法系)

→最重要

憲法・行政法に関しては判例集は必須です。なぜなら、短答式試験では、テキストの要約された判例の理由付けだけでは解けない問題が出るからです。判例集で長く事案や理由付けをマスターしましょう。

また、憲法や行政法は、法律の条文ではっきり規定されていることが少なく、判例が法律の穴を埋めています。その意味でも判例は重要です。

さらに、憲法や行政法の論文式試験では「あてはめ」が重要です。その「あてはめ」のお手本になるのが判例です。

(2)民事訴訟法・刑事訴訟法

→まあまあ重要

この2科目はまあまあ重要です。民事訴訟法や刑事訴訟法は、事案ごとに特別な事情があり、その事情を踏まえないと判例の結論が理解できないからです。また、「あてはめ」のやり方を見るのも重要です。

(3)民法・刑法・商法

→重要度は下がる

この3科目は、判例集自体の重要度は下がります。注意していただきたいのは、判例自体は重要ということです。ただ、この3科目は判例の事案や理由付けを長々問われることは少ないので、テキストでも十分判例をマスターできるということで、判例集はあまり重要ではないということになります。

この3科目に関しては、判例集は事案を見る、すなわち事例問題集のように使うのがよいでしょう。

なお、市販の判例集はいろいろありますが、やはり定番の判例百選が私はおすすめです。定番でもありますし、解説は司法試験・予備試験を意識して書かれています。

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ぜひ判例をマスターして、予備試験・司法試験に合格しましょう。

予備・司法試験の学習法4~実際になにをするか

この記事では、司法試験・予備試験に合格するために、実際に何をすればよいかを書いていきます。まず、予備試験に合格(又はロースクール修了)しなければ、司法試験を受けることさえできないので、予備試験の学習法について述べます。

1、学習期間

法律を全く学んだことがない方が、予備試験に合格するには、2年かかると思ってください。もちろん、法律の知識が多少ある方や、要領が良い方はもっと短期間で合格できるかもしれません。

ただ、通常は(学生なら学業、社会人なら仕事以外のほとんどを学習に注ぎ込んだとしても)2年はかかります。

大変だ、と思われた方もいらっしゃるでしょう。しかし、司法試験や予備試験は難しい資格です。難しい資格だからこそ、価値があるのです。

次に、「大学1年生からの予備試験学習法」と「社会人からの予備試験学習法」を動画で簡単にまとめましたので、ご覧ください。

2、大学1年生からの予備試験学習法

3、社会人からの予備試験学習法

予備・司法試験の学習法2~入門段階の教材の選び方

ここでは、予備・司法試験入門段階の教材の選び方について解説していきます。
教材も実際にご紹介していきます。
科目別の教材については別途解説していきます。

1、入門段階で必要な教材
前回のブログでも解説したとおり
①六法
②インプット用教材
③論証集(インプット用教材に含まれている場合は不要)
④短答用問題集
⑤論文用問題集
が必要になってきます。

2、六法
まずこれは必須です。最初のうちは、テキストに条文が出てきた度に六法を引きましょう。そして条文を読みましょう。
例え条文の内容がわからなくても読みましょう。
司法試験、予備試験は、まずは条文からスタートです。
司法試験は国会が作った法律を解釈して適用する試験ですから(原則、憲法という例外的な科目もあります)条文が一番大切なのです。

六法には、六法全書のような重厚なものや、実際の予備試験で配布される「司法試験予備試験用六法」、実際の司法試験で配布される「司法試験用六法」
などもあります。

ただ、学習の際には、いわゆる学習用六法を使いましょう。
岩波のコンパクト六法、三省堂のデイリー六法、有斐閣のポケット六法が有名です。

私は個人的にはデイリー六法が好きですが、この3つの選択は好みでよいでしょう。

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この六法に載っていない法律が出てきたときはインターネットで検索すれば足ります。
多数の方はスマートフォンをお持ちでしょうし、法律の学習にもスマホを最大限活用しましょう。

3、インプット用教材

入門段階ではこれをメインに使います。テキストを条文を引きながら読み、理解し、記憶すべきことは記憶する。
その素材となる教材です。

予備校に通われている方は、それを使ってください。
また法学部やロースクールの学生さんで、学者の教科書(司法試験業界では「基本書」と呼びます)が指定されている方は、それでもよいでしょう。

予備校のテキストも市販されております。

有名なところでは、伊藤塾の塾長が書かれた「試験対策講座」

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私が講師を務めるLEC東京リーガルマインドで出している「C-Book」

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あたりがあります。
予備校のテキストはビジュアルが見やすく、また法律系7科目が全て刊行されているのですが、一方で、科目によってムラがあったり(わかりやすい科目もあるが、これってどうなの?って科目も
正直あります)、一部記述が古かったりするので、科目ごとに本屋で手にとって選んだほうがよいでしょう。

また、学者の基本書を使う方法ももちろんあります。
たくさんありますが、例えば民法総則なら、佐久間先生の民法の基礎 といったものがあげられます。

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インプット用教材ですが、予備校に通われている場合は、そのテキストをまずは使っていってよいでしょう。
予備校にも法学部にも通ってない、完全に独学の方は自分で選ぶ必要があります。
その場合も、本屋に行って実際に手に取って「これで勉強が続けられるかな?」という観点で選んでいって下さい。

科目別のインプット用教材の選び方(レビューみたいなもの)は別記事でやります。

3、論証集
予備試験、司法試験の論文式試験に立ち向かうためには「論証集」というものを、覚える、というより書けるようにする必要があります。
「論証集」は論文を書くパーツだと今は考えてください。別記事で詳しく解説します。
とすれば、この論証集を入手する必要があります。

まず、予備校のテキストには、通常論証が載っています。
これは、通学用のテキスト(予備校の講座を取らないと手に入らない)ものにはもちろん、市販のテキスト(試験対策講座やC-Book)にも載っています。
ですので、それらのテキストを持っている方は別に用意する必要はございません。

問題は、学者の基本書をインプット用教材にした場合です。

まず、論証を自作する方法があります。これは、自作するだけで大変よい司法試験の勉強になるのですが、一方で時間もかかるし、ある程度法律の学習が進んでいないと
使えません。

そこで、次に予備校の論証講座を取る方法があります。
講師オリジナル論証集 解説講義

ただ、論証集をほしいだけなら、少し高い出費になってしまうかもしれません。逆に論証集の解説講義も欲しいならよいと思います。
※上記の講座は、一通り法律を学習したことがある方向けです。全くの初学者はとらないでください。

また、市販の論証集を使う方法もあります。

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ただ、上記の論証集は全科目あるわけではないんですよね。

いずれかの方法で論証集を入手してください。

4、短答用問題集

短答用問題集は自分が使いやすそうだなと思ったものなら何でもよいです。
ただ、体系別(分野別に頭から問題がならんているもの)の方が、インプットの後にすぐ解けるのでよいと思います。

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5、論文用問題集
論文用問題集には、レベル1~3まであります。
レベル1とは、基本的な論証を覚えていればすぐ書ける問題(つまりインプットがきちんとできていれば解ける問題)
レベル2とは、予備試験の論文式試験レベルであって、少し込み入った事例の処理や、理論的な法解釈を聞く問題
レベル3とは、司法試験の論文式試験レベルであって、複雑な事例の処理や、判例の批判など高度な法解釈を聞く問題
です(私の分類です)。

入門段階で必要なのはレベル1の問題集です。

ただ、純粋なレベル1の問題だけを収録した問題集はなかなかなくて、
レベル1~2.5くらいの問題が混在している書籍が多いです。

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上記教材の使い方、使う順序は別記事で書きます。

ちなみに今学習を始めようとしている方。
上記の教材を一気にそろえる必要はありません。

まずは六法と、始めようとしている科目のインプット教材だけでも、司法試験、予備試験の学習は始めることができます。

例えば、デイリー六法とC-Bookの民法総則だけ買う。

短答の問題を解くときに問題集は改めて買う。
この方が、教材の合う合わないを確かめながら、教材を購入できるのでよいと思います。

予備・司法試験の学習法1(入門段階1)

ここから、予備試験の法律科目の学習法について書いていきます。

ロースクール(法科大学院)入試も、入門段階ではほぼ同じ学習法が通用します。既修者入試に限りますが。
(予備試験とロースクール入試は、最後のレベルが違うだけだと思ってください)。

ですので、ここからは

①入門段階
②予備試験レベル
③司法試験レベル

の3つのレベルに分けて解説していきます。

ここからは、レベル1「入門段階」の話になります。

1、学習の順序
法律科目には学習の順序があります。
例えば、民事訴訟法という科目を学ぶには、民法という科目を学んでおく必要があります。民法で発生した権利を、裁判で求めていくのが民事訴訟法だからです。

ですので、最初に、

第1順位 憲法、民法、刑法を

その次に、

第2順位 商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法

をやっていく順序がいいと思います。

ただ、第一順位の中の科目で、何を先にやるかは自由です。
憲法、民法、刑法のどれからやってもよいということです。

そして、第一順位が終わった後に、第二順位の科目に取り組みます。
第二順位の科目の中での優先順位はありません。
商法、民事訴訟法、行政法、刑事訴訟法のどれからやってもよいということです。

※厳密にいえば、 民法 → 民事訴訟法、刑法→刑事訴訟法、民法→商法、行政法はなるべく最後の方に のルールに従えば、学習順序は自由です。

2、おすすめの学習順序

とはいっても、何からやればよいか迷う方も多いでしょう。

私のおすすめの順序は

民法 → 憲法 → 刑法 → 商法 → 行政法 → 民事訴訟法 → 刑事訴訟法
です。

この点は異論もあるかと思います。あくまで、私個人の考え方です。

憲法から学習する方も多いと思いますが、私は「民法」から学習することをおすすめしています。
その理由は、
①憲法は、下位の法律の中で憲法に違反するものを無効にするもの。だから、憲法をやる前に、憲法以外の法律を学んだ方がよい
②民法には、他の法解釈でも出てくる概念がつまっているので、先に民法を学習したほうが効率的
③民法は量が多いので、先に手を付けた方がよい。

ということがあげられます。
ですので、民法から学習しましょう。

3、用意する教材
入門段階で用意する教材は

①六法
②インプット用教材
③論証集(インプット用教材に含まれていれば不要)
④短答問題集
⑤簡単な論文問題集

になります。
教材については、記事を変えて解説していきます。