刑法の特徴(初学者向け)

ここでは司法試験・予備試験に必要な主要7法科目のうち、刑法という科目の特徴を見ていきましょう。

1、刑法とは?
(1)教科書的な理解

刑法は、犯罪の成立要件と刑罰について定める法律のことをいいます。これが教科書的な説明です。わかったようなわかんないような、そんな印象を受けると思います。

(2)犯罪論と刑罰論

刑法は、講学上(学問上)、犯罪論と刑罰論に分類されます。

犯罪論は犯罪の成立要件と刑罰、すなわち何をするとどんな刑罰が科せられるか、という部分になります。

例えば、他人の物を盗めば窃盗罪という罪になりますよね。

これは刑法235条の規定があります。

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 「他人の財物を窃取した」が犯罪の成立要件で(厳密にはもっと議論がありますが、とりあえずここではこれが要件としておきます)、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科せられる刑罰です。
 ただ、他の科目と同じく、条文だけでは解決できない問題があり、そこは条文(法律)の解釈が必要になってきます。司法試験や予備試験で重要な法解釈ですね。
例えば、AさんがBさんから現金1万円入りの封筒(封緘がしてあります)を受け取りましたが、Aさんは封筒を空けて1万円を取り出し使ってしまいました。
 他人から預かったものを使った場合は、横領罪になります。
一方、他人の物を盗んだ場合は窃盗罪です。
 先ほどのケースは横領か、窃盗かという議論です。
 結論を言いますと、封筒ごと自分のものにした場合は横領罪、中身を空けて中身だけ自分のものにした場合は窃盗罪とされます。
 中身を空けることは、頼まれた範囲を超えるからです。
 まず条文で何が犯罪となりどういう刑罰を科せられるかを覚え、それから個々の論点の解釈をマスターすることが、司法試験・予備試験の合格にとっては重要です。
(3)刑法総論と刑法各論
 (2)で検討した、「窃盗罪」「横領罪」など個別の犯罪を扱う分野を、講学上「刑法各論」と呼びます。
      一方で、犯罪に着手したが結果が発生しなかった場合を「未遂犯」といいます。刑が減刑されることがあります。
また、相手に殺されそうだったので、自分の身を守るために相手を殴った場合「正当防衛」となり、無罪となります。
「未遂犯」や「正当防衛」などは、様々な犯罪に共通して問題になるので「刑法総論」という分野でまとめて扱います。司法試験・予備試験の学習においては、まず「刑法総論」を学習した後、「刑「刑法各論」を学習します。

(4)刑罰論
どのような刑罰が刑法に規定されているかを扱うのが刑罰論です。
例えば、日本で採用されている刑罰は、

(刑の種類)
第九条 死刑、懲役、禁錮こ、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

となります。また、懲役刑を宣告されても、すぐに刑務所に行かなくてよい制度、それを「執行猶予」といいます。
懲役3年、執行猶予5年の判決を受けた場合は、5年間、何も犯罪を犯さずに過ごせば、刑務所に行かずにすみます。そして、5年間、無事経過した場合は、刑の言い渡しは効力を失います。

なお、刑務所に入れた場合、どのような効果があるかを探求したり、よりよい刑罰制度を考えるのは、刑事政策(刑事学)という分野になります。
かつては司法試験の選択科目となっていた時代もありますが、現在は試験範囲外です。但し、法律学の分野としては重要なものになります。

2、犯罪論の基礎
(1)罪刑法定主義

罪刑法定主義とは、何が犯罪とされ、どのような刑罰を科せられるかを、あらかじめ法律の明文で、明確に、定めておかなければならない原則をいいます。

逆に言うと、国民がどんなに処罰すべきだと思っている行為でも、法律で処罰することが定められてなければ、処罰できないということです。

罪刑法定主義の要請から、刑法では、条文が非常に大切になってきます。

(2)体系

では、条文の要件に該当すれば即処罰されるのか。

物騒な話ですが、AさんがBさんを殺したとします。Aさんの行為は、殺人罪の要件に該当します。

(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
 でも、AさんはBさんから殺されそうだから、Bさんを殺したとします。正当防衛として無罪となる余地がありそうです。
 そこで、刑法では、条文の要件に該当し(構成要件に該当するといいます)、かつ違法性があり(正当防衛の場合は違法性がないといいます)、かつ責任がある(例えば幼児は、自分が何をしているかわからないので責任がないといいます)場合のみ処罰されます。
 つまり、人を処罰するためには、構成要件該当性、違法性、責任の3つが必要なのです。
 但し、人を殺した場合は、原則は違法で、正当防衛みたいな例外的事情がある場合のみ処罰されないことになります。責任も原則あると考えてよいでしょう。
 そこで、犯罪の成立要件は、①構成要件該当性、②違法性阻却事由(違法性を失わせる事由、正当化事由ともいいます)がないこと、③責任阻却事由がないこと
 になります。
※あくまで通説的な見解からです。他の考え方もありますが、司法試験・予備試験においてはこの考え方で十分です。

(3)構成要件該当性

では構成要件該当性についてみていきましょう。

構成要件該当性とは、客観と主観に分かれます。

客観は、実行行為があり、結果が発生し、実行行為と結果との間に因果関係(つながり)があることです。

例えば、AさんがナイフでBさんの胸を突き刺し、Bが死亡したとしましょう。

実行行為が「AさんがナイフでBさんの胸を突き刺したこと」、結果が「Bが死亡したこと」です。そして、つながりがあることは明白ですので、因果関係もあります。

構成要件該当性の客観面は満たされた(要件に該当する)と言えます。

※言葉遣いが難しい!と思った方も多いでしょう。法律学では特有の言葉遣いが多いですが、慣れていって下さい。

構成要件の主観面ですが、それは故意があることです。

殺人の場合は「殺意」になります。

Aは、ナイフでBの胸を刺すくらいですから、通常は殺すつもりがあったと言っていいでしょう。

※細かい議論や過失犯などもあるのですが、ここでは割愛します。

(4)違法性阻却事由

正当防衛などがあれば、違法性が阻却され(違法性がなくなるということです)犯罪不成立になります。

先ほどの例では特に違法性阻却事由はなさそうです。

(5)責任阻却事由

刑事未成年(14歳未満)であったり、重度の精神病で責任能力がない場合なども犯罪不成立となります。先ほどの例では特になさそうです。

ここまでくれば、Aに殺人罪が成立するとなります。

刑法では、このように体系的思考が重要になってきます。

(6)修正された構成要件

複数の人で犯罪を行う「共同正犯」や「未遂犯」などは構成要件が修正されます。ここでは難しい話なので割愛します。

3、短答試験

ここでは、平成31年度の刑法総論の短答式試験の問題を見てみましょう。

〔第5問〕(配点:3)

正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを 2個選びなさい。(解答欄は,[№6],[№7]順不同) 1.当然又はほとんど確実に侵害が予期された場合において,単に予期された侵害を避けなかっ たにとどまらず,その機会を利用して積極的に相手方に対し加害行為をする意思で暴行に及ん だときは,その暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。

2.いわゆるけんか闘争において相手方に対してした暴行行為については,正当防衛が成立する 余地はない。

3.手拳で殴る素振りをしながら「お前殴られたいのか。」と言って近付いてきた相手方を,殺 傷能力のある刃物を構えて脅した場合,その脅迫行為については,正当防衛が成立する余地は ない。

4.自己に対しナイフを示して脅している相手方に対し専ら攻撃の意思で暴行に及んだ場合,そ の暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。

5.財産的権利を防衛するために相手方の身体に暴行を加えて傷害を負わせた場合,その暴行行 為については,正当防衛が成立する余地はない

このように、具体的事例に刑法(の条文や判例や通説的解釈)をあてはめるとどのような結論になるかが聞かれます。

しっかりと、講義を聞いたりテキストを読み、条文と解釈を身に着けることが重要です。また刑法は、学説の対立が激しいので、有名な学説については押さえておくほうが有用です。

4、論文試験

実際の司法試験・予備試験の論文の問題は長いので、簡単にした問題を考えていきましょう。

例)甲は、乙の妻である。乙は、甲の連れ子Aに暴行を加えていたが、甲は乙との関係が途切れるのが嫌で見て見ぬふりをしていた。ある日、乙は、Aに暴行を加えていたところ、甲はまたかと思ってみて見ぬふりをしていた。すると、Aが突然「ぎゃー」という声を上げて死んでしまった。甲の罪責について論ぜよ。

なかなか考えたくない凄惨な話ですが、法律は現実を扱う問題なので、このような問題がしばしば出てきます。

甲が積極的にやった行為はないのですが、乙の行為を止めなかったという点に着目しましょう。

止めないことで犯罪が成立する場合があります。「不作為犯」という論点です。詳しい解説はここでは控えますが「不作為犯」という論点を論じていくことになります。

5、司法試験・予備試験の中の刑法の位置づけ

・刑法は、刑事系科目の基礎となる科目です。刑事訴訟法は刑事裁判の手続きを扱う法律ですので、刑法の学習が前提となります。

・刑事系科目には特有の思考方法があります。刑事系科目、特に刑法は細かいです。

・ただ、一度マスターしてしまうと、法改正も多くはないですし、答案が書けるようになります。

・試験との関係では、具体的事案を処理するのが大切になります。

私は刑法はどちらかというと苦手でした。皆さんは、刑法の特徴を押さえ、ぜひ得意科目にしていただきたいです。

司法試験・予備試験では、刑法は得意な人と苦手な人がはっきり分かれる気がします。

 

民法の特徴(初学者向け)

1、基本7法

本記事は、司法試験・予備試験の各科目の特徴を簡単に解説していきます。

予備試験・司法試験ともに、出題の中心は基本7法と呼ばれるものです。基本7法とは、民法・刑法・憲法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法・行政法になります。

2、民法とは?

(1)教科書的な理解

民法を教科書的に解説すると、私人間の権利義務と家族関係について定めた法ということになります。

これだけ聞いても、頭の中に???が並ぶだけでしょう。

(2)契約を中心に考える

民法で扱う典型的な場面は、契約です。(家族関係もありますが、それは少し横に置いておきましょう)。

例えば、AさんがBさんにマンションの一室を貸したが、Bさんが無断でCさんに又貸ししている。AさんはBさんにマンションを返せと言えるのか。

これは立派な民法の問題です。

民法の条文にはこのような規定があります。

第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 賃借人であるBさんが賃貸人であるAさんに無断で、Cさんに又貸しした場合は、AさんはABの賃貸借契約を解除(解約)できるということです。

(3)ルールの修正

ただ、法律の条文上は、無断で又貸しした(無断転貸といいます)場合は、常に解除できるように読めますが、判例がこのルールを修正しています。

それは「信頼関係破壊の法理」というものです。
例えば、Bさんが自分の成人している息子Cに貸した場合。

なぜ、無断転貸がいけないか。

それは、不動産の貸主は、借主を見て、「この人なら大丈夫だろう。家を大切に使ってくれるだろう。そして家賃もきちんと払ってくれるだろう」と考えて貸しているのです。

ところが、全然知らないCさんに又貸しされてしまえば、Cさんが家を汚したり、壊してしまうかもしれません。

そこで、無断転貸がされた場合には、貸主は賃貸借契約を解除できるようにしたのです。

ここで、Bさんが息子Cに貸した場合。BさんとCさんは一心同体と言えなくもないです(もちろんケースバイケースになります)。そして、BもCに貸さざるを得ない状況があるかもしれません。

そこで、Bさんが息子のCさんに貸した場合のように(家族に使用させることは予想できますよね)、貸主Aと借主Bの信頼関係を破壊しない場合は、AはAB間の賃貸借契約を解除できないとしたのです。

これを信頼関係破壊の法理といいます。

3、原則と例外

このように、条文を機械的に適用した場合に不都合が起こる場合、解釈で条文ルールを修正することがあります。これが、司法試験・予備試験でよく出題される「論点」というものです。

まずは、条文に書いてある「制度」を理解し、不都合があるときの「解釈」を学ぶ。これが民法学習において必要です。

4、契約自由の原則と任意規定・強行規定
(1)契約自由の原則

ここで、民法は契約について定めていると言っても、契約は「契約書」で定めるんじゃないのか?と思った方もいらっしゃると思います。民法の規定と「契約書」の内容について考えていきましょう。

民法の世界では、「契約自由の原則」というものがあります。これは、当事者任意で(つまり脅されたり騙されたりすることなく)契約をする場合、どんな内容の契約も自由にできるという原則です。

(2)任意規定(任意法規)

しかし、契約で決めなかった事項についてはどうなるでしょうか。契約で定めなかったことで、民法に規定がある場合は、民法の規定どおりになります。この規定のことを任意規定と呼びます。

例えば、お金を貸したが、返済期限を定めなかった場合、貸金はいつ返ってくるのでしょうか。
これは、民法の任意規定により「催告後相当期間経過時」、つまり返せと言ってからある程度の期間が経ったときに返済義務が生じます。

(3)強行規定(強行法規)

では、契約でどんなことを定めてもよいのでしょうか。実は、民法その他の法律の「強行規定」に反してはならないとされます。強行法規ともいいます。

例えば、契約自由と言ったって、あまりに高い利息でお金を貸すことは、利息制限法という法律で禁じられています。つまり、利息制限法の利息制限の規定は強行規定になります。元本の額が10万円未満だと、最高利息は年2割となります(利息制限法1条1号)。

いわゆる「トイチの利息」(10日で1割の利息)は違法となります。

(4)まとめ

契約で定めなかった時に使われるのが任意規定です。一方、強行規定に反する契約は定めても無効になります。

任意規定と強行規定について学ぶのが民法と言っても、民法の中心が契約である以上は、過言ではありません(もちろん民法には家族法など他の規定もあります)。

5、民法の短答問題

予備試験の民法短答問題を見てみましょう。

〔第1問〕(配点:2)
制限行為能力者の行為であることを理由とする取消しに関する次のアからオまでの各記述のう ち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 (解答欄は, [№1])
ア.未成年者がした売買契約は,親権者の同意を得ないでした場合であっても,その契約が日常生活に関するものであるときは,取り消すことができない。
イ.成年被後見人がした売買契約は,成年後見人の同意を得てした場合であっても,その契約が日常生活に関するものであるときを除き,取り消すことができる。
ウ.被保佐人がした保証契約は,保佐人の同意を得てした場合には,取り消すことができない。
エ.被補助人が,補助人の同意を得なければならない行為を,その同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでしたときは,その行為は取り消すことができる。
オ.成年被後見人の行為であることを理由とする取消権の消滅時効の起算点は,成年被後見人が行為能力者となった時である。

1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ

これは令和元年度の予備試験民法の第1問です。司法試験もほぼ同じ問題です。
答えは2番です。このように、民法の短答式試験は、条文や判例を具体的事例に適用して結論を出すという問題が多いです。

対策としては、講義やテキストで、民法の条文や判例を中心に制度を学ぶ、典型的な解釈を身に着ける、具体的事例にたくさん触れる、問題演習もたくさんする、に尽きます。

6、民法の論文問題

実際の予備試験や司法試験の問題は長いので、もっと簡単な論文問題を見てみましょう。

例)AはBに車を売ったが、当該売買はBの詐欺により行われたものであった。Bは当該車をCに転売した(車はCの手元にある)。その後、AはAB間の売買契約を取り消した。CがAB間の詐欺の事実を知らなかったし、知ることもできなかった時、AはCに車の引き渡しを請求できるか。なお、当該車は、未登録であることを前提にせよ。

雰囲気としては、予備試験や司法試験にはこんな問題が出ます。実際にはもっと長文の事例で、複雑なものが出ます。

これに民法の条文を適用し、解釈して結論を出していくということです。

7、司法試験・予備試験の中の民法の位置づけ

(1)典型的な解釈の技法を学ぶ場である

まず、司法試験・予備試験の中で、民法は最重要科目といってよいでしょう。理由としては、まず法律の解釈の基本的なテクニックが、民法にたくさんあるからです。ここで他の科目にも通用する解釈の技法を学びましょう。

(2)量が一番多い

次に、民法は最も量が多いということが挙げられます。量が多い科目を早めに制服することは、司法試験・予備試験の短期合格を狙うコツです。

(3)商法・民事訴訟法・行政法を学ぶ前提となる

さらに、商法や民事訴訟法、行政法などを学ぶためには、まず民法を学ぶ必要るということです。商法は民法の特別法なので、先に民法を学ぶ必要があります。民事訴訟法も、民法で定められた権利義務を実現する、民事裁判の手続に関する法律なので、先に民法を学んでおく必要があります。
行政法も、民法との対比をしなければ理解しにくい部分がありますので、民法先に学んでおく必要があります。