刑事訴訟法の特徴(初学者向け)

1、刑事訴訟法とは

司法試験・予備試験の主要科目の1つに刑事訴訟法があります。略して「刑訴」といったりします。

刑事訴訟法とは、その名の通り、刑事裁判の手続を定めた法律になります。それだけでなく、犯罪の「捜査」についての手続も定めています。

犯罪があると警察官が考えた場合、警察官は犯罪を捜査します。犯人と疑われる人(被疑者といいます)の住居に入って証拠を探したり(捜索、いわゆるガサ入れ)、被疑者が逃げないように逮捕したりします。

そして、警察官は被疑者を捕まえた場合は、検察官に送致します(文字通り身柄を送ります)。検察官は、法的な観点から補充捜査をし、被疑者を起訴するかどうかを決める権限を有した公務員です。被疑者を起訴した場合、公判追行(裁判を進めること)するのも検察官になります。

検察官も法曹三者の一つですから、原則として司法試験に合格したものがなります。

2、刑事訴訟法の分野

(1)捜査、公判、証拠

大きく分けて、①捜査、②公判、③証拠 に分かれます。司法試験や予備試験の論文に出やすいのは、①捜査と③証拠です。①捜査は全般的に出ますが、③証拠は特に「伝聞証拠」という分野が出題されやすいです。

また、②公判が出るときは「訴因」という分野が出題されやすいです。

このように、司法試験・予備試験の刑事訴訟法の論文式試験では、出やすい分野が決まっています。

(2)理論と手続

刑事訴訟法では、どういう手続を行わなければならないかという手続きそのものと、理論的な部分の両方が問われます。

正確にいうと、司法試験・予備試験の論文では主に理論が聞かれます。一方、予備試験の短答では、手続きと理論の両方が聞かれます(ただ、短答では手続を問う問題の比重が大きいでしょう)。

例1)警察官Aは被疑者甲を逮捕した。何時間以内に検察官に送致しなければならないか?

→これは手続きの問題です。

刑事訴訟法208条は以下のようになっています。

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

正解は48時間以内ですね。

例2)警察官Aは、甲が殺人を犯したとの疑いを持ったが、殺人で逮捕するほどの証拠を得られなかった。そこで、甲があんぱんを万引きしたことに目を付け、窃盗罪で逮捕し、殺人の取り調べをした。

→これは理論の問題です。殺人みたいな重大犯罪の取り調べをする目的で、比較的軽微な窃盗のような罪で逮捕し、殺人の取り調べばかりする、これは「別件逮捕」という問題です。

このような「別件逮捕」がそもそも許されるのか、理論的に考えていくことになります。

3、捜査で重要な「令状主義」と「強制処分法定主義」

(1)令状主義

警察官は、被疑者が逃げないように逮捕したり、被疑者の家にはいって証拠物を探したりできます。被疑者が嫌といってもできるので、「強制捜査」や「強制処分」といいます。しかし、強制処分は、重大な人権侵害を伴います。

そこで、逮捕や捜索などの強制処分をするためには、あらかじめ裁判官が発布した令状が必要だというルールになっています。このことを「令状主義」といいます。

令状主義は、刑訴法にも規定がありますが、憲法にも規定がある大切な原則になります。憲法の条文を挙げておきます。

第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

→逮捕に令状が必要だと記載してあります。

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

→捜索に令状が必要だと記載してあります。

(2)強制処分法定主義

強制処分は重大な人権侵害を伴うので、刑訴法に規定のある「強制処分」しか行うことができません。刑訴法に書いてない強制処分をすることは許されないのですね。刑訴法の条文に書いてあります。

第百九十七条 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

「逮捕」や「捜索」は刑訴法の条文に書いてあるのですることができますが、GPS発信機を付けて、被疑者の所在を把握する「GPS捜査」は刑訴法に規定がないので、許されないことになります。

4、司法試験・予備試験における刑訴法学習のポイント

(1)刑事手続を意識する

刑事裁判を傍聴しないとなかなかイメージがわかないものですが、刑事訴訟法極めて実務的な法律です。捜査や裁判の手続を意識しながら、まずは手続を覚えましょう。

(2)条文を大切にする

全ての科目において共通ですが、刑事訴訟法も条文が大切です。予備校の講義を聞くとき、あるいは独学でテキストを読むときでも、たえず六法を手元において、条文を引きながら学習しましょう。

条文を徹底的に引いて、体に染み込ませるイメージです。司法試験・予備試験学習においては、条文は大切です。

(3)具体的な事例を意識する

刑事訴訟法の論文問題は、事例形式で出題されます。常に事例を意識して、このケースに法律をあてはめるとどうなるだろうと考えていくことが重要です。

(4)判例を意識する

事例を学ぶのに一番いい素材が「判例」です。また、判例が言っていること(規範)を覚える必要もあります。判例のエッセンスは、テキスト等に載っているので、初学者はテキスト等で学習しましょう。

少し学習が進んでくると、「判例百選」などの判例集で、少し長めに引用されている判例を読むことも、司法試験・予備試験のいい勉強になります。

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民事訴訟法の特徴(初学者向け)

1、民事訴訟法とは

(1)民事訴訟は何のためにあるか

司法試験・予備試験の主要7法に、民事訴訟法という法律があります。

民事訴訟法とは、「民事訴訟に関する法律です」とよく言われます。でもこの定義だと、なんにもわからないですよね。具体例に即して考えていきましょう。

Case)XはYに100万円を貸したが,Yは返してくれない。

Xさんはどうしますか?諦めますか?
あきらめたくない。Yに返せと強く言う。
でもYは返してくれない。

そんなときに、「裁判」というものがあります。

XはYに民事訴訟(民事裁判)を提起し,勝訴すると、「YはXに金100万円を支払え」という判決を獲得します。

この判決文は権威あるものなので、この段階で、事実上払う人もいます。

でも判決が出てもYが支払わない場合、どうすればよいのでしょうか。

(2)強制執行

判決が出ても、まだYが支払わない場合は,XがYの財産を見つけ,強制執行をします。(判決を債務名義とする強制執行といいます)。

ここまでいくと、Xは貸したお金を実際に回収できるわけですね。

(3)民事訴訟とは

このように,義務を履行しないものに対し,強制的に履行を実現するプロセスが民事訴訟といえましょう。

狭義(狭い意味)では、判決を得るまでを民事訴訟と言います。
広義(広い意味)では、強制執行まで含めて、民事訴訟といいます。

2、いろいろな民事訴訟法
(1)広義の民事訴訟法

広義の民事訴訟法には、以下のようなものが含まれます。

①民事訴訟法(狭義)
=民事訴訟法という名前の法律。民事訴訟の手続(判決を得るまでの手続)が規定されている。

②民事執行法
=強制執行について規定する法律

③民事保全法
=民事保全(判決が出るまで待てないからとりあえず何かする)について規定する法律

④破産法
=債務者(お金を借りている人など)が、払えなくなった場合の処理(破産)について定める法律

などがあります。この他にも、様々な法律があります。

(2)司法試験・予備試験の出題範囲

司法試験・予備試験の民事訴訟法では
①民事訴訟法(狭義)
②民事執行法
③民事保全法
が出題範囲です。

ただ、②③についてはあまり出ません。出題のほとんどが①民事訴訟法(狭義です。
また、予備試験の民事実務科目でも①~③の法律の知識は必要です。

④破産法は、司法試験の選択科目の1つになっております(実務では重要な科目です)。

司法試験・予備試験の出題の中心は、①民事訴訟法(狭義)ですので、これに絞ってブログ記事も書いていきます。

3、民事訴訟法の学習のコツ
(1)民訴は眠素(みんそ)

民事訴訟法を略して、「民訴」(みんそ)といいますが、これは「眠素」と揶揄されてきました。
司法試験・予備試験の勉強をしていると、民訴の勉強は本当に眠いのです。

その原因は、抽象的な規定であることと、(普通は)民事裁判を経験したことがないので、イメージがわきにくいことにあります。

(2)眠素を打破するためには

民訴の出題は、大きく分けて「手続」と「理論」に分かれます。
この2つのどちらをやっているか意識してください。

また、早めに全体を回して民訴の手続の流れをつかむことも重要です。
(民訴は最後までやらないと、最初の方の概念がわからないこともあります)

(3)民訴の手続について
手続は、主に予備試験の短答と、民事実務科目で出題されます。

この手続の流れを、条文を引きながら、体にしみ込ませてください。

司法試験(と予備試験)は、法曹になるためのライセンスです。
法曹にとって、民事訴訟の流れは必須です。
確かに眠いのですが、将来の法曹像を思い描きながら、頑張っていきましょう。

例えば、民事訴訟の始まりは、原告(訴えを起こす人)が被告(訴えを起こされる人)を明示して、訴状を裁判所に提出することです。

民事訴訟法
(訴え提起の方式)
第百三十三条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因

訴状には、請求の趣旨及び原因を記載しなければなりません。この記載がないと、最終的には裁判長に訴状が却下されてしまうことになります。

ここでいう請求の趣旨は、「どのような判決を求めるかの簡潔な記載」をいいます。例えば、「金100万円を支払えとの判決を求める」などです。

また、ここでいう請求の原因は、「請求を特定するのに必要な事実」を言います。金100万円を支払え、だけだと、何の話かわかりません。
何の話かわからないと、被告も裁判所も困ってしまいます。
そこで、「売買契約に基づき」などと書いてあげて、請求を特定するのです。

「請求の特定」というのは、司法試験・予備試験の学習において、すごく重要な概念ですから、なんとなくでいいのでイメージできるようにしてください。

(4)民訴の理論について

民訴の論文(司法試験・予備試験ともに)には、理論がでます。
民訴の理論は大変深いです。

また、他の法律科目と違い、通説判例だけでなく、反対説も知っておいたほうがよいという特色もあります(反対説については別の記事で解説します)。

1つだけ例を挙げると、民訴には「処分権主義」という大事な原則があります。
処分権主義とは、訴訟の開始、訴訟物(裁判の対象)の特定、訴訟の終了を原告の意思に委ねる建前をいいます。

民事裁判は、原告が裁判を起こさないと裁判になりません。裁判所が原告の意思を忖度して起こすことはあり得ません。
「訴えなければ裁判なし」と言ったりしますが、これは処分権主義の表れです。
また、原告が100万円請求しているのに、裁判所が120万円を支払えという判決を出すこともできません。原告の意思に反しているからです。これも処分権主義の話です。

(5)民訴の学習法

民訴も他の科目と同様、最初のうちは、講義を条文引きながら聞く(あるいはテキストを条文を引きながら読む)、論証を覚えることにつきます。
その際、どうしても民訴は抽象的なのですが、具体例をなるべくイメージするようにしてください。

予備・司法試験の学習法3~論証とは

 予備試験・司法試験の合格には、論文式試験を突破することが重要です。
短答式試験に合格しても、論文式試験にいつまでたっても受からず、涙を飲んで撤退する方も数多いです。

 そこで、この記事では、予備試験・司法試験突破の鍵となる「論証」について解説していきます。

1、論点とは

 それでは、論証とはいったい何なのでしょう。
これは、「法解釈」の存在と関係しています。
 本来、深い問題なのですが、かいつまんで説明していきます。

 法律を作るとき、本来は全てのケースをすっきり説明できるような法律にするのが理想的なのですが、全てのケースを想定して作ることは不可能です。
 また、法律である以上、ある程度抽象的に規定せざるを得ません。

 そこで、法律を作っても、「この場合どうなるの?」というケースが出てくるのです。
 一例を挙げましょう。

民法
第三条 私権の享有は、出生に始まる。

 人は、出生すると、権利を持てるわけです。
ここで、人はお母さんのおなかの中から生まれてくるわけですが、頭の先だけ出たら出生と言えるのか、全部体が出たら出生と言えるのか問題になります。
 前者を一部露出説、後者を全部露出説といいます。

 こんな細かい問題、くだらないと思われた方もいらっしゃるでしょう。

 しかし、出生のタイミングによって、相続なども変わってくるため、あなどれない問題です。

 そして、この問題は、法律の条文だけを見ても、よくわからないわけです。
 そこで、法律の条文を解釈して、一定の結論を導く必要が出てきます。
 このように解釈が必要な問題点のことを、論点といいます。

2、論証とは

 論証とは、この論点につき、理由を付けて、解釈の結論を示したパッケージのことです。

 先ほどの論点について、論証を記載します。

 民法3条1項は、「私権の享有は、出生に始まる。」と規定する。しかし、母体から一部露出した時を出生とするのか、全部露出したときを出生とするのか、法律の文言からは明らかではない。
 この点、解釈の明確性から、母体から全部露出したときを出生とするのが妥当である。

 これが論証です。
 全部露出説という結論を明示しています。
 また、理由付けも「解釈の明確性」とコンパクトに示しています。

 若干補足説明をしますと、一部露出説だと、頭の先がでたらいいのか、首まで出たらいいのか、基準があいまいになってしまします。そこで、全部露出説の方が基準が明確だろう、そういうことです。

3、なぜ論証を覚えなければならないのか

 それでは、なぜ、司法試験・予備試験の論文式試験突破には、論証を覚えることが必須なのでしょうか。

 まず、論証を1から考えるのは、時間がないということがあげられます。
司法試験・予備試験の論文式試験を解くにあたっては、時間が思ったより足りないです。
 そこであらかじめ用意できることは、用意しておく必要があります。

 料理で言えば、「下ごしらえ」です。下ごしらえしているから、料理をスピーディーにだせます。
 論証も同じことです。

 まだ、論証を一から考えるのは大変ですし、試験の現場では思いつかないこともあります。
そこで、論証を論文のパーツとして、用意していくのです。
 論証をいくつか組み合わせて、論文を作成することになります。

 そして、試験の現場では、論証でカバーできない点を考えることに時間を使うわけです。

4、論証の覚え方

 論証は、一言一句同じものを覚える必要はありません。
法律学は、論理が大事なので、ロジックが通じていれば、言い回しを変えたりしても問題ありません。
場合によっては、結論や理由付けが違っても問題ないです。

 予備校の講座を取ると、たいてい論証集が付いてきます。
また、市販の論証集もあります。

 それを読んで、まず理解をする。
(前提として、法律の理解は必要なので、予備校の入門講座を取るか、独学なら基本書を読んでおきましょう)

 その上で、自分が覚えやすい形にアレンジする(文言の言い回しなどを変えます)

 そして、キーワードを中心に覚える。

 論証を見ずに、チラシの裏などに書いて再現できるか確認する。

 このように論証を覚えていきましょう。

5、司法試験・予備試験の中で一番大変な作業

 司法試験・予備試験の勉強の中で、一番大変な作業が、この論証を覚える作業です。
ここで挫折する方も多いです。

 しかし、論証を覚えないと、論文が書けません。
 将来の法曹像を思い浮かべながら、頑張っていきましょう。

商法の特徴(初学者向け)

ここでは司法試験・予備試験に必要な主要7法科目のうち、商法という科目の特徴を見ていきましょう。

1、司法試験・予備試験の商法とは

司法試験・予備試験には商法という科目があります。
司法試験の論文式試験と、予備試験の短答・論文式試験で出題される科目です。
ビジネスローをやるには必須の分野の商法。しかし、実際のビジネスの場面をイメージしにくいのもあって、苦手な受験生も多い科目です。

2、商法とは
(1)広義の商法
まず、広い意味の商法(広義の商法)という概念があります。
これは、商人や商行為に関わる法、くらいのイメージを持っておきましょう。
広義の商法には主要な法律だけでいっても、次の5つがあります(もちろんその他にもあります)。

①(狭義の)商法
② 会社法
③ 手形小切手法
④ 保険法
⑤ 金融商品取引法

(2)司法試験・予備試験の出題範囲

司法試験・予備試験の出題範囲は、
①(狭義の)商法
② 会社法
③ 手形小切手法
となっておりますので、④と⑤を先に解説しておきます。

(3)司法試験・予備試験に出ない保険法と金商法

④保険法は、私保険、つまり民間の会社が運営する生命保険や損害保険の規律をする分野になります。私保険が社会の隅々まで浸透している現代社会においては(弁護士保険なんていうのもあります)、極めて重要な法分野です。
但し、特殊な考慮を要する部分もありますので、司法試験・予備試験の出題範囲外となっております。

⑤金融商品取引法(金商法)とは、かつて「証券取引法」という名前の法律でした。株式やその他の金融商品についての規制や、企業情報の開示(決算書の開示等)について定めた法律です。
これもビジネスローをには重要な法分野なのですが、特殊なため、司法試験・予備試験では出題されません。

司法試験・予備試験は、あくまで基本的な法分野を問う試験なのですね。

3、狭義の商法とは
(1)商法という名前の法律
「商法」という名前の法律を、狭義の商法といいます。
商法は、商人や商行為について定めた法律で、民法の特則を規定しています。
例えば、商法512条にはこのような規定があります。

(報酬請求権)
第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

民法の世界では、契約がないと報酬を請求できませんが、商法の世界では、商人は契約がなくとも相当な報酬を請求できます。次のCaseを見てみましょう。

Case1)Yさんは建設業者Xに家の修理を依頼しました。YとXは契約交渉をしていましたが、正式な契約書は交わしていません。Xは、Yに「急ぎの工事だから」と言われて、契約書を交わさないまま修理をしてしまいました。
XがYに報酬を請求すると、Yは「正式な契約が成立していないから」と言って、お金を支払おうとしません。

こんなときに、XはYに商法512条に基づいて、報酬を請求できるわけです。

このように、商法は、民法では規定がない部分を補っています。

(2)狭義の商法の分野
商法は
・商法総則
・商行為
・海商

と3つの分野からなっております。海商は、特殊なため司法試験・予備試験では出題されません。また、かつては会社法と保険法も商法の中に規定がありました。

商法総則と商行為は、民法の規定を、商売用にアレンジしたというイメージを持っておけばよいでしょう。

4、会社法とは
(1)会社法の概要
「会社法」という名前の法律が、株式会社を中心とする会社について規定しています。
民法の特別法ですが、会社組織というものを扱うので、民法と少し視点が異なります。

代表例の株式会社で考えてみましょう。

Case2)Aさんは、これからはフカヒレラーメンが流行ると考え、フカヒレラーメンチェーンのラーメン店をたくさん作りたいと考えています。しかし、Aさんは自己資金がたくさんあるわけではないので、たくさんの人からお金を集めたいと考えています。また、何かあったときにAさん個人の財産が取られるのは嫌だと考えています。

上記のAさんのように、多数の人からお金を集める(出資してもらう)のに適しているのが株式会社です。

例えばBさんに1億円出資してと言うと断られるかもしれません。

しかし、1株1万円だとして、Bさんに1株買ってよと言うと、1万円くらいならOKしてくれる可能性はあります。
1万円の株を1万株発行し、引き受けてくれる人を探せば、Aさんは1万円を手に入れることができます。
そして、1株を引き受けたBさんは、1万分の1の経営権を持ちます。なぜなら、株主は会社の実質的なオーナーと言えるからです。
会社に利益があれば、株主は毎年配当金を受け取ることができます。

また、会社は法人と呼ばれるものです。例えば「フカヒレラーメン株式会社」という会社を設立したら、その会社は、法的には、Aさんと別の人です。
フカヒレラーメン株式会社の財産はAさんの財産ではありません。逆にいうと、フカヒレラーメン株式会社の負債はAさんの負債ではありません。フカヒレラーメン株式会社にお金を貸した銀行は、フカヒレラーメン株式会社にだけ返済を請求でき、Aさんには請求できません。

(2)会社のステークホルダー
(1)で述べたように、株主は、会社の実質的経営者です。しかし、株主は(通常は)経営の能力もないし、また、配当金がもらえればいいや、経営なんか興味ないと思っていることもあるでしょう。

そこで、取締役という経営者が、通常の会社の経営をします。
株主は、(原則として)年に1度の株主総会で、本当に大切なことだけを決めるのです。これを、「所有と経営の分離」といいます。会社の所有者(オーナー)である株主は、原則経営をしないということです。
他に、会社を監査する「監査役」等を置くこともあります。

ここで、ステークホルダーとは利害関係人のことをいいます。会社のステークホルダーは、まず、会社そのもの(法人なので経営者とは別人格です)、株主、取締役等がいます。また、会社にお金を貸したりしている「債権者」も重要なステークホルダーです。

(3)会社法の事例
司法試験・予備試験の会社法では、ステークホルダー同士のトラブルがよく出題されます。

Case3)A社の代表取締役Bは、株主総会の決議を経ずに、友人のCに、A社の株100株を総額100円で発行しました。なお、当時のA社の株価は1株1万円です。この株式発行は、Cに特に有利な価額で(有利発行といいます)行ったものなので、本来、株主総会決議が会社法上必要なのです。しかし、株主総会決議がありません。
当該株式発行は有効でしょうか。

この問題の答えは複雑なので、ここで記載はしませんが、A社、代表取締役B、友人のC、そして他の株主と、複数のステークホルダーの利害が絡むわけです。また、上記Caseには、株主総会決議を経ていないという会社法違反と、他の株主とCを不平等に扱っているという問題の2点が存在します。

5、手形小切手法とは
(1)手形小切手法の概要
司法試験・予備試験では「手形法」と「小切手法」が出題されます。手形には約束手形と為替手形の2種類があります。小切手法は小切手というものについて規定しています。
司法試験・予備試験で出るのは主に約束手形なので、約束手形について解説していきます。

(2)約束手形とは
Case4)YはXに工事を1000万円で発注しました。Yは手元に現金がなかったので、60日後に支払日を定めて、Xに約束手形を振り出しました。Xは手形をAに800万円で裏書譲渡しました。

Aさんは、支払日に(Yの指定する)銀行に手形を持っていけば1000万円を払ってもらえます。

このように、一定の期日に一定の金額を支払ってもらえる証券を約束手形といいます。

約束手形の本質は、借金なのですが、証券にしているので、他人に譲ったりできます(流通性を高めると言います)。

6、司法試験・予備試験での商法の勉強について
(1)まず会社法
司法試験・予備試験の商法は、会社法が出題の中心です。
ですので、まず会社法をしっかりおさえましょう。

(2)会社法は条文が大切
会社法は、比較的新しい法律なので、条文がしっかりしています。
そこで、まずはテキストを条文を引きながら読み、制度を理解しましょう。
予備校の講義でも、六法で条文を引きながら進みます。

(3)論点
その上で、論証というものを書けるようにします。論証は、司法試験・予備試験の答案を作る上での部品のようなものです。

(4)他の科目について
狭義の商法や手形小切手法は、短答では少ないながら出題されますし、論文でも出る可能性はあります。
ただ、会社法に比べると重要度が下がりますので、あっさりと重要な条文や論点を中心に勉強しましょう。

(5)苦手な人が多い
会社法は、ビジネスの場面がイメージしにくいですし、技術的な法律であることもあって、司法試験・予備試験受験生にとって苦手な科目なようです。
しかし、逆に言えば出題内容は単純です。得意科目にして、他の受験生に差をつけやすい科目でもあります。ぜひ得意科目にしてください。