民事訴訟法の特徴(初学者向け)

1、民事訴訟法とは

(1)民事訴訟は何のためにあるか

司法試験・予備試験の主要7法に、民事訴訟法という法律があります。

民事訴訟法とは、「民事訴訟に関する法律です」とよく言われます。でもこの定義だと、なんにもわからないですよね。具体例に即して考えていきましょう。

Case)XはYに100万円を貸したが,Yは返してくれない。

Xさんはどうしますか?諦めますか?
あきらめたくない。Yに返せと強く言う。
でもYは返してくれない。

そんなときに、「裁判」というものがあります。

XはYに民事訴訟(民事裁判)を提起し,勝訴すると、「YはXに金100万円を支払え」という判決を獲得します。

この判決文は権威あるものなので、この段階で、事実上払う人もいます。

でも判決が出てもYが支払わない場合、どうすればよいのでしょうか。

(2)強制執行

判決が出ても、まだYが支払わない場合は,XがYの財産を見つけ,強制執行をします。(判決を債務名義とする強制執行といいます)。

ここまでいくと、Xは貸したお金を実際に回収できるわけですね。

(3)民事訴訟とは

このように,義務を履行しないものに対し,強制的に履行を実現するプロセスが民事訴訟といえましょう。

狭義(狭い意味)では、判決を得るまでを民事訴訟と言います。
広義(広い意味)では、強制執行まで含めて、民事訴訟といいます。

2、いろいろな民事訴訟法
(1)広義の民事訴訟法

広義の民事訴訟法には、以下のようなものが含まれます。

①民事訴訟法(狭義)
=民事訴訟法という名前の法律。民事訴訟の手続(判決を得るまでの手続)が規定されている。

②民事執行法
=強制執行について規定する法律

③民事保全法
=民事保全(判決が出るまで待てないからとりあえず何かする)について規定する法律

④破産法
=債務者(お金を借りている人など)が、払えなくなった場合の処理(破産)について定める法律

などがあります。この他にも、様々な法律があります。

(2)司法試験・予備試験の出題範囲

司法試験・予備試験の民事訴訟法では
①民事訴訟法(狭義)
②民事執行法
③民事保全法
が出題範囲です。

ただ、②③についてはあまり出ません。出題のほとんどが①民事訴訟法(狭義です。
また、予備試験の民事実務科目でも①~③の法律の知識は必要です。

④破産法は、司法試験の選択科目の1つになっております(実務では重要な科目です)。

司法試験・予備試験の出題の中心は、①民事訴訟法(狭義)ですので、これに絞ってブログ記事も書いていきます。

3、民事訴訟法の学習のコツ
(1)民訴は眠素(みんそ)

民事訴訟法を略して、「民訴」(みんそ)といいますが、これは「眠素」と揶揄されてきました。
司法試験・予備試験の勉強をしていると、民訴の勉強は本当に眠いのです。

その原因は、抽象的な規定であることと、(普通は)民事裁判を経験したことがないので、イメージがわきにくいことにあります。

(2)眠素を打破するためには

民訴の出題は、大きく分けて「手続」と「理論」に分かれます。
この2つのどちらをやっているか意識してください。

また、早めに全体を回して民訴の手続の流れをつかむことも重要です。
(民訴は最後までやらないと、最初の方の概念がわからないこともあります)

(3)民訴の手続について
手続は、主に予備試験の短答と、民事実務科目で出題されます。

この手続の流れを、条文を引きながら、体にしみ込ませてください。

司法試験(と予備試験)は、法曹になるためのライセンスです。
法曹にとって、民事訴訟の流れは必須です。
確かに眠いのですが、将来の法曹像を思い描きながら、頑張っていきましょう。

例えば、民事訴訟の始まりは、原告(訴えを起こす人)が被告(訴えを起こされる人)を明示して、訴状を裁判所に提出することです。

民事訴訟法
(訴え提起の方式)
第百三十三条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因

訴状には、請求の趣旨及び原因を記載しなければなりません。この記載がないと、最終的には裁判長に訴状が却下されてしまうことになります。

ここでいう請求の趣旨は、「どのような判決を求めるかの簡潔な記載」をいいます。例えば、「金100万円を支払えとの判決を求める」などです。

また、ここでいう請求の原因は、「請求を特定するのに必要な事実」を言います。金100万円を支払え、だけだと、何の話かわかりません。
何の話かわからないと、被告も裁判所も困ってしまいます。
そこで、「売買契約に基づき」などと書いてあげて、請求を特定するのです。

「請求の特定」というのは、司法試験・予備試験の学習において、すごく重要な概念ですから、なんとなくでいいのでイメージできるようにしてください。

(4)民訴の理論について

民訴の論文(司法試験・予備試験ともに)には、理論がでます。
民訴の理論は大変深いです。

また、他の法律科目と違い、通説判例だけでなく、反対説も知っておいたほうがよいという特色もあります(反対説については別の記事で解説します)。

1つだけ例を挙げると、民訴には「処分権主義」という大事な原則があります。
処分権主義とは、訴訟の開始、訴訟物(裁判の対象)の特定、訴訟の終了を原告の意思に委ねる建前をいいます。

民事裁判は、原告が裁判を起こさないと裁判になりません。裁判所が原告の意思を忖度して起こすことはあり得ません。
「訴えなければ裁判なし」と言ったりしますが、これは処分権主義の表れです。
また、原告が100万円請求しているのに、裁判所が120万円を支払えという判決を出すこともできません。原告の意思に反しているからです。これも処分権主義の話です。

(5)民訴の学習法

民訴も他の科目と同様、最初のうちは、講義を条文引きながら聞く(あるいはテキストを条文を引きながら読む)、論証を覚えることにつきます。
その際、どうしても民訴は抽象的なのですが、具体例をなるべくイメージするようにしてください。