ここでは司法試験・予備試験に必要な主要7法科目のうち、商法という科目の特徴を見ていきましょう。
1、司法試験・予備試験の商法とは
司法試験・予備試験には商法という科目があります。
司法試験の論文式試験と、予備試験の短答・論文式試験で出題される科目です。
ビジネスローをやるには必須の分野の商法。しかし、実際のビジネスの場面をイメージしにくいのもあって、苦手な受験生も多い科目です。
2、商法とは
(1)広義の商法
まず、広い意味の商法(広義の商法)という概念があります。
これは、商人や商行為に関わる法、くらいのイメージを持っておきましょう。
広義の商法には主要な法律だけでいっても、次の5つがあります(もちろんその他にもあります)。
①(狭義の)商法
② 会社法
③ 手形小切手法
④ 保険法
⑤ 金融商品取引法
(2)司法試験・予備試験の出題範囲
司法試験・予備試験の出題範囲は、
①(狭義の)商法
② 会社法
③ 手形小切手法
となっておりますので、④と⑤を先に解説しておきます。
(3)司法試験・予備試験に出ない保険法と金商法
④保険法は、私保険、つまり民間の会社が運営する生命保険や損害保険の規律をする分野になります。私保険が社会の隅々まで浸透している現代社会においては(弁護士保険なんていうのもあります)、極めて重要な法分野です。
但し、特殊な考慮を要する部分もありますので、司法試験・予備試験の出題範囲外となっております。
⑤金融商品取引法(金商法)とは、かつて「証券取引法」という名前の法律でした。株式やその他の金融商品についての規制や、企業情報の開示(決算書の開示等)について定めた法律です。
これもビジネスローをには重要な法分野なのですが、特殊なため、司法試験・予備試験では出題されません。
司法試験・予備試験は、あくまで基本的な法分野を問う試験なのですね。
3、狭義の商法とは
(1)商法という名前の法律
「商法」という名前の法律を、狭義の商法といいます。
商法は、商人や商行為について定めた法律で、民法の特則を規定しています。
例えば、商法512条にはこのような規定があります。
(報酬請求権)
第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
民法の世界では、契約がないと報酬を請求できませんが、商法の世界では、商人は契約がなくとも相当な報酬を請求できます。次のCaseを見てみましょう。
Case1)Yさんは建設業者Xに家の修理を依頼しました。YとXは契約交渉をしていましたが、正式な契約書は交わしていません。Xは、Yに「急ぎの工事だから」と言われて、契約書を交わさないまま修理をしてしまいました。
XがYに報酬を請求すると、Yは「正式な契約が成立していないから」と言って、お金を支払おうとしません。
こんなときに、XはYに商法512条に基づいて、報酬を請求できるわけです。
このように、商法は、民法では規定がない部分を補っています。
(2)狭義の商法の分野
商法は
・商法総則
・商行為
・海商
と3つの分野からなっております。海商は、特殊なため司法試験・予備試験では出題されません。また、かつては会社法と保険法も商法の中に規定がありました。
商法総則と商行為は、民法の規定を、商売用にアレンジしたというイメージを持っておけばよいでしょう。
4、会社法とは
(1)会社法の概要
「会社法」という名前の法律が、株式会社を中心とする会社について規定しています。
民法の特別法ですが、会社組織というものを扱うので、民法と少し視点が異なります。
代表例の株式会社で考えてみましょう。
Case2)Aさんは、これからはフカヒレラーメンが流行ると考え、フカヒレラーメンチェーンのラーメン店をたくさん作りたいと考えています。しかし、Aさんは自己資金がたくさんあるわけではないので、たくさんの人からお金を集めたいと考えています。また、何かあったときにAさん個人の財産が取られるのは嫌だと考えています。
上記のAさんのように、多数の人からお金を集める(出資してもらう)のに適しているのが株式会社です。
例えばBさんに1億円出資してと言うと断られるかもしれません。
しかし、1株1万円だとして、Bさんに1株買ってよと言うと、1万円くらいならOKしてくれる可能性はあります。
1万円の株を1万株発行し、引き受けてくれる人を探せば、Aさんは1万円を手に入れることができます。
そして、1株を引き受けたBさんは、1万分の1の経営権を持ちます。なぜなら、株主は会社の実質的なオーナーと言えるからです。
会社に利益があれば、株主は毎年配当金を受け取ることができます。
また、会社は法人と呼ばれるものです。例えば「フカヒレラーメン株式会社」という会社を設立したら、その会社は、法的には、Aさんと別の人です。
フカヒレラーメン株式会社の財産はAさんの財産ではありません。逆にいうと、フカヒレラーメン株式会社の負債はAさんの負債ではありません。フカヒレラーメン株式会社にお金を貸した銀行は、フカヒレラーメン株式会社にだけ返済を請求でき、Aさんには請求できません。
(2)会社のステークホルダー
(1)で述べたように、株主は、会社の実質的経営者です。しかし、株主は(通常は)経営の能力もないし、また、配当金がもらえればいいや、経営なんか興味ないと思っていることもあるでしょう。
そこで、取締役という経営者が、通常の会社の経営をします。
株主は、(原則として)年に1度の株主総会で、本当に大切なことだけを決めるのです。これを、「所有と経営の分離」といいます。会社の所有者(オーナー)である株主は、原則経営をしないということです。
他に、会社を監査する「監査役」等を置くこともあります。
ここで、ステークホルダーとは利害関係人のことをいいます。会社のステークホルダーは、まず、会社そのもの(法人なので経営者とは別人格です)、株主、取締役等がいます。また、会社にお金を貸したりしている「債権者」も重要なステークホルダーです。
(3)会社法の事例
司法試験・予備試験の会社法では、ステークホルダー同士のトラブルがよく出題されます。
Case3)A社の代表取締役Bは、株主総会の決議を経ずに、友人のCに、A社の株100株を総額100円で発行しました。なお、当時のA社の株価は1株1万円です。この株式発行は、Cに特に有利な価額で(有利発行といいます)行ったものなので、本来、株主総会決議が会社法上必要なのです。しかし、株主総会決議がありません。
当該株式発行は有効でしょうか。
この問題の答えは複雑なので、ここで記載はしませんが、A社、代表取締役B、友人のC、そして他の株主と、複数のステークホルダーの利害が絡むわけです。また、上記Caseには、株主総会決議を経ていないという会社法違反と、他の株主とCを不平等に扱っているという問題の2点が存在します。
5、手形小切手法とは
(1)手形小切手法の概要
司法試験・予備試験では「手形法」と「小切手法」が出題されます。手形には約束手形と為替手形の2種類があります。小切手法は小切手というものについて規定しています。
司法試験・予備試験で出るのは主に約束手形なので、約束手形について解説していきます。
(2)約束手形とは
Case4)YはXに工事を1000万円で発注しました。Yは手元に現金がなかったので、60日後に支払日を定めて、Xに約束手形を振り出しました。Xは手形をAに800万円で裏書譲渡しました。
Aさんは、支払日に(Yの指定する)銀行に手形を持っていけば1000万円を払ってもらえます。
このように、一定の期日に一定の金額を支払ってもらえる証券を約束手形といいます。
約束手形の本質は、借金なのですが、証券にしているので、他人に譲ったりできます(流通性を高めると言います)。
6、司法試験・予備試験での商法の勉強について
(1)まず会社法
司法試験・予備試験の商法は、会社法が出題の中心です。
ですので、まず会社法をしっかりおさえましょう。
(2)会社法は条文が大切
会社法は、比較的新しい法律なので、条文がしっかりしています。
そこで、まずはテキストを条文を引きながら読み、制度を理解しましょう。
予備校の講義でも、六法で条文を引きながら進みます。
(3)論点
その上で、論証というものを書けるようにします。論証は、司法試験・予備試験の答案を作る上での部品のようなものです。
(4)他の科目について
狭義の商法や手形小切手法は、短答では少ないながら出題されますし、論文でも出る可能性はあります。
ただ、会社法に比べると重要度が下がりますので、あっさりと重要な条文や論点を中心に勉強しましょう。
(5)苦手な人が多い
会社法は、ビジネスの場面がイメージしにくいですし、技術的な法律であることもあって、司法試験・予備試験受験生にとって苦手な科目なようです。
しかし、逆に言えば出題内容は単純です。得意科目にして、他の受験生に差をつけやすい科目でもあります。ぜひ得意科目にしてください。