憲法の特徴(初学者向け)

本記事では、司法試験・予備試験の主要科目でもある憲法について解説します。憲法は、中学校の公民や高校の政治経済で学んだ方も多く、とっつきやすい反面、かなり難しい側面を有した科目でもあります。

1、憲法とは~国の最高法規の意味

日本の憲法は、「日本国憲法」です。憲法は、法の法ともいい、国会が作ったルールである法律よりも、上位のルールです。

上位のルールという意味は、憲法の規定と矛盾した法律は無効になるということです(憲法98条1項)。

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

例えば、「国の政治を批判したものは、死刑に処する」という法律があったとしましょう。しかし、これは、表現の自由を定めた憲法21条1項と矛盾します。憲法21条1項の条文を掲げておきます。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

先ほどの、「国の政治を批判したものは、死刑に処する」という法律は無効なので、国の政治を批判しても処罰されないという結論になります。

2、人権と統治

(1)分類

憲法は、主に人権と統治(機構)に分けられます。この他に憲法総論というものを加える人もいますが、統治に含めて考える人もいます。

(2)人権

人権とは、先ほどの表現の自由のように、国民の権利を規定したものです(外国人にも性質上可能な限り人権は保障されます)。

人権には、表現の自由や生存権、教育を受ける権利など様々なものがあります(カタログのように列挙されているので、「人権カタログ」と言ったりします)。高校までの政治経済では、人権の種類を覚えるのが、重要な勉強だったと思います。

しかし、司法試験・予備試験の人権はその上を行きます。

例えば、先ほどの「国の政治を批判したものは、死刑に処する」という法律に関しては、「いくら何でもひどいでしょ」といって、無効になるのは、大多数の人が同意できると思います。

しかし、例えば「Aさんは殺人犯だ」とインターネットに書き込んだBがいた場合どうでしょうか(事例を単純にするために、そのような事実はないものとします)。

現在の日本ではBさんんは、名誉毀損罪で処罰されます。また、AはBに損害賠償請求もできます。ただ、Bさんの行為は、表現の自由範囲内と言えるのではないでしょうか。

ここで、表現の自由が憲法で規定されていても、何でもしてよいというわけではないことに気が付かれると思います。
言い換えると、許される表現と、許されない表現があるわけです。そして、前者は憲法21条1項で保護されるが、後者は保護されない。

これを憲法では、表現の自由は公共の福祉の範囲内で行使できると言ったりします。

現代社会では、「国の政治を批判したものは、死刑に処する」というような、明らかな人権侵害の立法は少ないです(諸外国ではありますし、日本でもあるかもしれませんが)

ですので、司法試験や予備試験で出る憲法は、微妙な事例、すなわち、憲法保護されるのか保護されないのか判断に迷う事例が出てきます。

これが、司法試験・予備試験の憲法の難しさです。

(2)統治(機構)

統治(機構)とは、国会、内閣、裁判所など国の統治の基本事項を定めたものをいいます。その他に、財政や地方自治についても規定しています。

国会が法律を作り、内閣はそれに基づいて行政をし、裁判所も法律に基づいて裁判をする。このような三権分立で日本の統治機構は成り立っています。

また、国会で第一党を占めた政党が、通常は内閣を組織します。

このブログを書いている当時、国会の第一党は自民党なので、自民党が内閣を組織しています。このような形態を議院内閣制といいます。

アメリカでは大統領制が取られているので、大統領は選挙で選ばれますが、議院内閣制を採っている日本では異なります。議院内閣制のような制度も憲法の統治機構で学びます。

3、判例の重要性

憲法では、判例が重要です(特に人権分野)。

憲法の規定は、抽象的ですし、憲法の争いになれば、たいてい最高裁判所まで上訴されて判断が下されます。司法試験・予備試験の憲法において判例は重要です。

一方、統治の分野は、裁判になりにくいこともあって(国会議員が内閣を裁判で訴えるというのは現実問題考えにくいですし、憲法や法律上のハードルもあります)、判例は少ないです。

ただ、多少はあります・

4、短答と論文

(1)短答式試験の憲法

司法試験・予備試験ともに短答式試験には憲法があります。

短答式試験の人権分野では、主に判例の知識が聞かれます。そして、他の科目違い、かなり細かい部分まで聞いてきます。ですので、憲法判例は細かく読み込む必要があります。判例の他には、条文の知識や理論が多少聞かれたりします。

一方、統治分野では、判例も聞かれますが、主に条文の知識や理論が聞かれます。

(2)論文式試験の憲法

論文式試験の憲法では、通常、長文の事例が一問でます。

司法試験ではほとんど人権の分野からの出題です(ただ、部分的に統治の知識を用いることはあります)。予備試験では主に人権分野からの出題ですが、統治から出ることもたまにあります。

そして、当事者の立場に立った論述が求められることが多いので、クライアントを勝たせるために判例ではなく学説を使う必要があれば、学説を書く必要があります。

つまり、司法試験・予備試験の論文を解くには、最低限の学説を知っておく必要があります。

また、憲法の論文は自由度が高いです。きちんと論理だてて説明できれば、例えば既存の学説であまり論じられていないことを書いても、点数が付きます。

憲法の論文は得意な人と苦手な人がはっきりわかれます。

5、憲法の学習順序

憲法から学習を始める方も多いのですが、憲法は下位の法律を無効にするものです。ですので、下位の法律を1つくらい具体的に学習してから、憲法を学習したほうが効率がよいです。また、憲法はとっつきやすいですが、奥が深いで、最初の学習は民法または刑法からされることをお勧めします。